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ゴーレム4


「自殺するようなやつだと思ったことは無かったんだがな」

マーク・コレッティはその四角い顔をしかめた。

すぐに「いや、だからといって、カーラがどう、といいたいわけではないのだが」
と付け足した。

---

警察が、カーラを保護したその夜は、俺は彼女と二人で近くのモーテルに泊まった。

次の日の朝、彼女の両親がオハイオ州から車で迎えに来た。
大体車で飛ばして8時間の距離だ。
連絡を受けて、直ぐに家を出て、夜を通してでハイウェイを飛ばしたのだろう。

彼女はそのまま、モーテルからオハイオの実家に帰った。

両親は、車から降りもせず、俺に挨拶もしなかった。

あの調子だと、彼女がDCに戻ってくることは無いだろう。
何かの用事で帰ってきたとしても、俺に連絡もしないだろう。

そういうことだ。

「良い人」たちの、非日常に対する反応だ。

正確な因果関係よりも、「自分たちの日常とは違うように見えるもの」
に、とりあえず厄介なことを押付けて、
うちら良い人でございと涼しい顔ができればそれでいいのだ。

--この世のどんな醜いことも、見なければ、見えない。見えなければ、存在しない。
そんな声が、走り去る彼女の両親のシビックから聞こえたようだった。

まあ、モーテルの玄関先で見送った俺も、けして褒められた風体ではなかった。
モーテルに来る前に最低限の着替えをひっつかんだとはいえ、
整えもしない長髪の赤髪(ジンジャー)で、黒ジーンズに地元デスロックバンドのTシャツ姿の、青白い顔した貧相な若い男、という見え方だろう。
そりゃ、娘を殺人事件に巻き込んだ悪鬼だという印象をあたえたわな。

「何か必要だったら、メアドいつもチェックしてんで。」
と彼女に言ったのが最後だった。

きっと、荷物を送れとかそういう用件しかこないのだろう。

その日は、仕事は流石に休んだ。
上司に電話で連絡したら、もう事件のことは知っていた。

「2-3日休んでいい。とにかく警察に協力しろ」とのこと。
直接対面する顧客のいないエンジニア職は、これだから辞められない。

自分の状況を、フェイスブックやツイッターに上げようとして、
モーテルのワイヤレスLANづたいにノートパソコンを開いたら、
100を超えるコメントやら、直メッセージやらが来ていた。

思わずノートを閉じた。
もう一度あけて、自分あてのメッセージを無視し、
カーラのフェイスブックページに開いてみた。

酷いことになっていた。

カーラを売女呼ばわりするもの、
ネイサンの状況についての不当な想像、
注目が集まるこの機会に乗じて自分の商品の宣伝をするものなどなど等。

もくもくと腹から上がってくる負の感情を抑え、やっとのことで、
カーラのフェイスブックと、ツイッターの管理者に状況の説明と、
アカウントの凍結申請だけを終わらせた。

・・・出来るだけ、オンラインから距離を置きたかった。

が、

ずっと一人でモーテルに泊まるほど高給取りでもないし、
かといって転がり込む両親が近くにいるわけでもない。
まあ近くても遠くても転がり込んだりしないだろうが。

あの家に戻ることも考えたが、
警察の立ち入り禁止テープが張ってあるのは2階のみとはいえ、
夜中にひょっこり、あの顔の崩れたネイサンが降りてきそうで
とても眠れる場所とは思えなかった。

一度、もっと長期用の着替えと貴重品と当座必要な電子機器を取りに帰り、
モーテル内の中庭にスマートフォンを持って出ていって、アドレス帳を検索した。

条件:
1)家族持ちではない
2)根無し(パートナーのいない)ゲイ、ではない 
3)女の一人暮らしではない 

転がり込めそうな友人の電話番号を、片端から掛けてみた。

---

マーク・コレッティは、スコティッシュとイタリアンの混血だ。
彼は、バグパイプ4人演奏のグループの一員で、地元のイベントでよく演奏している。
なかなかの腕だ。

彼も、長いこと「シーン」の住人だ。

俺も以前は随分とバグパイプ演奏に誘われた。
「その赤髪ジンジャーで、キルト着て立っていてくれればそれだけで映える!」
と口説かれたが、自分の音楽才能の無さは重々承知しているので
断り続けている。

しかし、バグパイプの音は好きなので、彼の演奏するイベントには顔を出したし、
よくバグパイプのフィーチャーした音楽CDを交換したりする仲だった。
現在のところ、本業のコンピューターサイエンス博士の論文が忙しく、
彼女どころか、音楽どころでもない。

なので転がり込んだ。

「大変なことになったな。スコット。」
と、その四角い巨体でハグしてきた。

忙しいところ悪いな、と、いいつつ、リビングのソファーに手荷物を置く。
一段落ついてるから気にするな、と、彼らしい答えが返ってきた。

渡されたブランデーを口に含む。

-------

「自殺するようなやつだと思ったことは無かったんだがな」

いわれてみれば、

全く矛盾する話ではあるが、
自ら咥えた銃口に撃たれて死ぬ、
というのはネイサンらしいと思ったが
自殺を考えていた、となると、どうもネイサンらしくない。

世の中を斜に構えてみてはいた、かもしれないが、
それで悲観してたとは思えないのだ。

むしろ、
「歯の間に詰まったチキンを銃口を使って取ろうとした」
の方が、納得する。

暗がりの住人ではあったが、彼はそれを開き直り大声で笑いとばすパワーを
常に持っていた。
積極的に、同好の輩が集まれる場所を常に提供できるようにしていたし、
前向きの闇、という印象だった。
変な言葉ではあるけれど。


だから、自殺、という言葉は不自然だ。
自事故、なら分るのだが、とマーク・コレッティに返答する。

すると、

「まあ、自事故も自殺も、結果は同じだが。」

と、彼は言った。

やっぱりどうも、納得がいかない。

ネイサンが自殺を考えていたのでないなら、そこに居た意思を持つ人間は
あともうひとりしかいない。

カーラが、ネイサンを、意図的に殺した。

そんな不吉な考えは払拭したかったので、

「ネイサンの所有するライフルなら、変態極まって自分で歩きだしたりしそうだがな。」

と軽口を叩いた。

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