ゴーレム6

警察の聴収もない日だったため、フィラデルフィアから来たネイサンの両親と、 年上の姉上殿、と俺で、葬式の計画を立てた。

いまさら紙の郵便で案内を出すような人は、年老いた親類だけだという。
だからオンラインで連絡できる友人関係は、俺から連絡することになった。

ご両親は、警察帰りでホテルに連泊していた。
もちろん落胆激しく、言葉も少なかったが、
ネイサンの主義や生活をよく熟知していて、
はっきりと無宗教の集会にしたいと断言した。
親しい友人のDJの名前を何人か知っていたので、彼らにBGMの選曲を任せるとのこと。

俺はすこしネイサンが羨ましくなった。

俺がたとえ明日、不慮の事故で死んだとしても、
死骸はネブラスカに冷凍空輸されて
俺の意思にかかわらず、訳の分からないプロテスタントの棺に込められて
2000年前にくたばった男の骸をあしらった十字架の下に埋められることだろう。

・・・そう、いちいちいいたかねぇが。

ジェイもあれからDCに滞在している。
俺が人様の葬式をきちんと施行できるか監視するため、
そして、最終的には両親の元に一度帰宅させるため、
金魚のウンコのように俺の後ろにぶら下がって歩きやがってる。
(※・・・やつの話になると、俺の口調が変になる。から余計に嫌だ)

そして、葬式の日。
思ったとおり、沢山の人が詰め掛けた。
地元中心の活動とはいえ、ちょっと名の知れたミュージシャンの姿も見える。

しかしそもそも、常日頃から葬式みたいな姿で会っているやつらが
集まっているので、葬式だということを忘れてしまいそうになる。

違うのは、送られてきた花束と、ネイサンの棺桶。

ネイサンにはいつもイベントで着ていた、真っ黒な中世の騎士のブラウスを着せた。
これは俺が彼のクローゼットから引っ張り出した。
普通は死化粧をほどこすところだろうが、
ネイサンの顔は半分吹っ飛んでしまったので、
彼がルネサンスフェスティバルで買った、いつも壁に飾っていた
石造の、細かい美しい中世風の細工が施された仮面が被された。

紫と濃紺の羽飾りが、カタチも命もない顔の輪郭を飾る。

--仮面が似合わなねぇよな。

俺はDC中心ストリート(モール)の空気を思い起こしていた。

無害な一般人です、と仮面をつけてKストリートを闊歩している、
SMショップお得意さんのお高い弁護士や、
こそこそと男娼を買うくせに、ゲイの権利開放に断固反対している政治家たち
のことを考えると、
誰よりも正直に、アメリカ文化の裏を堂々と主張していた彼が、
死んでから仮面をつけることになる、というのは少し皮肉だった。

もちろんカーラの姿は見えなかったが、
カーラの家族から、品のいい小さな花束が贈られてきた。
ネイサンの両親は「感謝します」と受け取った。

式の進行は、とても淡白だった。
俺がまずネイサンの死亡診断書を読み上げて、
司法による調査は進行中で何もわかっていないことを念を押す。
そして、何人か指定されたDJたちがBGMを流しつつ
友人達がネイサンとの思い出を語る、というものだった。

「自殺を考えてたとはとても思えないわ」

サラが(普段どおりの)PVCのエナメル黒のコルセットに黒チュールのドレスを着て
ビクトリアン・レースのハンカチで涙を拭く。

「・・・自殺だったのかしら?」

「まあカーラの話によると、自殺と呼んだほうがいい状況だね。」

サラは背の高い女性で、6フィートは軽くある。
平均よりも少し小さいぐらいの俺と話すときは
如何してもサラの鼻の穴を見つめながら話すことになってしまう。
先ほどまで軽く泣いてたので、すこし・・・詰まってる。
女性に対して失礼な話ではあるが。

「でも、彼女元海兵隊でしょう?そんなに間違ってトリガーひいちゃうような
ポジションで握るかしら?」

細かいな。そういえばサラもペンタゴンで働く軍人だ。

カーラが元海兵隊ということはしらなかった、と俺は答えた。
いちいち同居人の過去の履歴書などに興味を持たないので聞かなかった。
もちろん、カーラが話したのだったら憶えてたかもしれないが、
話さなかったのだろう。ということは、話したくもなかったのだろう。

サラ以外にもいろいろ事件の真相について聞いてくる輩は多く、
それにいちいち「分からない」と返答することに疲れたので、
俺は中庭に出た。
そこはすっかり喫煙場になっていたが
皆、口にくわれるものがあるぶんだけ、比較的静かだった。


で。

こいつは何だ?

ユリ、菊、ガーベラ。さまざまな白い花で作られた大きな十字架。
場違いで浮いている。
大きいので、会場に収まらず中庭に移動された。

友人たちが、周りでタバコをすっている。
「上下逆にしてやろうかと思ったんだけど」
ネイサンと仲のよかったジョシュアが言う。

「いやー。ヤツは自分が無宗教でいる権利は熱心に主張してたが、
他人の宗教に嫌がらせするのはいやがるタチだったからな。
それはどうかなー?」

地元DJのトニーが牽制した。

「年配のご親戚も居ることだし、逆十字はやばいだろーよ。」

「そもそも、逆にしたら、このネイサンの名前も逆になるだろ。」

「だよね。このまま飾っとくしかないんだけど・・・しかし送り主がちょとなあ。」

全くだ。
何だって、よりによって、共和党から 花が送られてくる?

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