ゴーレム2
事件直後は、俺はカーラに同情的だった。
警察に、その昼、彼らが痴話喧嘩していたこと、と
カーラとの痴話喧嘩の後、俺が誘ってネイサンと一緒に昼間から少し飲んだということを
他人事のように伝える。 何を飲んだかとか、帰ってきた時間、パブの名前、などを話しながら、 カーラだって被害者だよな、と考えていた。 カーラは、ネイサンにしては長続きしている女だったと思う。 しかし、ネイサンと付き合いだす前は、DCゴス音楽好きの「シーン」では見かけなかった。 まあ、俺がきづかなっただけかもしれないけど。 しかしネイサンにひきずりこまれた「ノン・フリーク」だった可能性もある。
DCゴス音楽シーンには、アバンギャルドでヘヴィな音楽好きが集まる
「DCフリークス」というオンラインの掲示板があった。 その名前から、よく顔を出すメンバーや自らを「フリークス」と呼んでいた。
シーンの間口の広さから、音楽好きのみならず、ゲイ、BDSM好き、コンピューターマニア、当時ファンサブすらなかった日本のアニメが好きなもの、はたまたオカルトマニアまで、まあ要するに普通のアメリカンではない人が、それぞれの違いを楽しむ趣向で集まっていた。
だから、正直、普通のアメリカン・・・リアリティ・ショウやスポーツなどを楽しみ オートミール・クッキーにかぶりつき、陽だまりに生きるアメリカンの女には、 ネイサンと付き合うのはキツいんじゃないかな、と思っていた。 ネイサンは、ワインを中心とした小さいレストランを経営するシェフだが、 そのの傍ら、音楽イベントを開催したり、そのベンダーのマーケティングをする、 「シーン」のリーダー的存在だった。 ネイサンが扱うベンダーは、大概、髑髏のアクセサリーだの、攻撃的なメッセージTシャツだのを売る個人ビジネスだった。 そういったものは、まあ一般にも受け入れやすいだろうが、中には売る場所を選ばなければいけないベンダーもあった。 たとえば、拘束具だの鞭だの○×具だの、特殊な市場向けのベンダーだ。 ネイサンは、よくそういったアイテムをサンプルとして持って帰ってきた。 勿論、俺は奴と寝たことは無いし (ひどい冗談だ!)、突っ込んだプライベートな話もしなかったので、 実際にそういった商品を使用したかどうかは、知らないし、知りたくもない。 が、廊下を掃除しているとき、半開きドアの外から見えたベッドルームには、 ネイサンの筋トレ用、だと思いたい・・・ような、 大仰で特殊な器具か家具か、がチラりと見えた、ことはあった。 要するに、間違っても陽だまりに住んでいる奴ではなかった。 DCの裏のカルチャーに通じ、むしろ夜に生きる奴だった。 ネイサンが好んで使ったシーン・ネーム「ダーク」が、それを表している。 もし、カーラが何も知らずにネイサンと付き合いだして、 ネイサン色に染め上げられていったのだとしたら・・・? 人によっては「素質がない人は、惹かれない」とは言うが、 素質があるかどうかなんて、自分自身にも分からないことの方が多い。 なにか無理に自分をだまして、ネイサンに合わせていたのだとしたら、 それは身体的にも精神的にも、相当な負担なのじゃないかと思う。 次の日、警察がカーラの供述書のファイルを持ってきて、 不自然な所があったら指摘するよう指示してきた。 それを読んでも、まあそんなところだろうな、と思った。 ネイサンは、コトの真っ最中にセミオートのライフルの銃口を自分に向け ベッドの上のカーラにトリガーを持たせた。 「俺が憎いか?憎いなら殺してみろ!」 と、言って銃口を咥えこんだそうだ。 カーラは拒否したが、ネイサンに平手打ちをくらい、 その勢いでトリガーをひいてしまったそうだ。 ネイサンは気が狂っていたのかもしれない。 そう思って、駆けつけたネイサンの家族と葬式の準備している間も 俺は少しカーラに同情していた。 していた・・・んだが。
カーラとの痴話喧嘩の後、俺が誘ってネイサンと一緒に昼間から少し飲んだということを
他人事のように伝える。 何を飲んだかとか、帰ってきた時間、パブの名前、などを話しながら、 カーラだって被害者だよな、と考えていた。 カーラは、ネイサンにしては長続きしている女だったと思う。 しかし、ネイサンと付き合いだす前は、DCゴス音楽好きの「シーン」では見かけなかった。 まあ、俺がきづかなっただけかもしれないけど。 しかしネイサンにひきずりこまれた「ノン・フリーク」だった可能性もある。
DCゴス音楽シーンには、アバンギャルドでヘヴィな音楽好きが集まる
「DCフリークス」というオンラインの掲示板があった。 その名前から、よく顔を出すメンバーや自らを「フリークス」と呼んでいた。
シーンの間口の広さから、音楽好きのみならず、ゲイ、BDSM好き、コンピューターマニア、当時ファンサブすらなかった日本のアニメが好きなもの、はたまたオカルトマニアまで、まあ要するに普通のアメリカンではない人が、それぞれの違いを楽しむ趣向で集まっていた。
だから、正直、普通のアメリカン・・・リアリティ・ショウやスポーツなどを楽しみ オートミール・クッキーにかぶりつき、陽だまりに生きるアメリカンの女には、 ネイサンと付き合うのはキツいんじゃないかな、と思っていた。 ネイサンは、ワインを中心とした小さいレストランを経営するシェフだが、 そのの傍ら、音楽イベントを開催したり、そのベンダーのマーケティングをする、 「シーン」のリーダー的存在だった。 ネイサンが扱うベンダーは、大概、髑髏のアクセサリーだの、攻撃的なメッセージTシャツだのを売る個人ビジネスだった。 そういったものは、まあ一般にも受け入れやすいだろうが、中には売る場所を選ばなければいけないベンダーもあった。 たとえば、拘束具だの鞭だの○×具だの、特殊な市場向けのベンダーだ。 ネイサンは、よくそういったアイテムをサンプルとして持って帰ってきた。 勿論、俺は奴と寝たことは無いし (ひどい冗談だ!)、突っ込んだプライベートな話もしなかったので、 実際にそういった商品を使用したかどうかは、知らないし、知りたくもない。 が、廊下を掃除しているとき、半開きドアの外から見えたベッドルームには、 ネイサンの筋トレ用、だと思いたい・・・ような、 大仰で特殊な器具か家具か、がチラりと見えた、ことはあった。 要するに、間違っても陽だまりに住んでいる奴ではなかった。 DCの裏のカルチャーに通じ、むしろ夜に生きる奴だった。 ネイサンが好んで使ったシーン・ネーム「ダーク」が、それを表している。 もし、カーラが何も知らずにネイサンと付き合いだして、 ネイサン色に染め上げられていったのだとしたら・・・? 人によっては「素質がない人は、惹かれない」とは言うが、 素質があるかどうかなんて、自分自身にも分からないことの方が多い。 なにか無理に自分をだまして、ネイサンに合わせていたのだとしたら、 それは身体的にも精神的にも、相当な負担なのじゃないかと思う。 次の日、警察がカーラの供述書のファイルを持ってきて、 不自然な所があったら指摘するよう指示してきた。 それを読んでも、まあそんなところだろうな、と思った。 ネイサンは、コトの真っ最中にセミオートのライフルの銃口を自分に向け ベッドの上のカーラにトリガーを持たせた。 「俺が憎いか?憎いなら殺してみろ!」 と、言って銃口を咥えこんだそうだ。 カーラは拒否したが、ネイサンに平手打ちをくらい、 その勢いでトリガーをひいてしまったそうだ。 ネイサンは気が狂っていたのかもしれない。 そう思って、駆けつけたネイサンの家族と葬式の準備している間も 俺は少しカーラに同情していた。 していた・・・んだが。