ゴーレム1
この話はグロいです。残念ながら、これも、半分以上ノンフィクション。
しかし語り手の「俺」は捏造キャラです。
それ以外は実在する人とそうでない人が混在しています。
元となった事件のWashington Postはこちら:
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「カーラ、出所したってよ」
カウンター席についたとたん、そんな声が飛んできた。
不吉な音楽が大音量で流れるクラブの端のカウンター。
轟音のために、聞き違えたかと思ったので、
「え?何?」
と、聞き返した。
ダーク・ゴスが大音量で流れるこのダンスイベント「アルケミー」の名物(で、ゲイ)のバーテン、クリスは冷蔵庫に両腕をついて、バーに寄りかかるようにして、俺の耳元ではっきりと言った。
いつものテラテラのリップグロスが、至近距離に近づくとちょっとぞくっとする。
防衛本能かもしれない。
「カーラがもう出所したって言ったんだよ。」
まだRail Drinkを二口しか飲んでいないにもかかわらず、
俺は少し眩暈がした気がしてカウンター席にへたりと座り込んだ。
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カーラは、2年ほど前、当時付き合っていたネイサンを自宅で射殺した。
俺は、その頃その1.カーラと、2.ネイサン、そして3.当時俺が付き合っていた女
と、合計4人でハウスシェアをしてバージニア州のフェアファックスに一緒に住んでいた。
自己防衛と心神喪失を主張して、3年半の懲役が下っていたはずだ。
まだ二年しか経ってない。
早いだろ。
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第一発見者、というか、カーラの「私がネイサンを殺した」という申告を聞いて、
警察に電話したのは俺だ。
鮮血を浴びた、呆然と立ち尽くす全裸のカーラに
バスタオルをかけたのも、俺だった。
不思議と、冷静に頭は回ってて、
警察が来るまで血を拭いたり、シャワーを浴びせたりしたらいけないんだろうな
ということを考えていた。
真っ赤に染まったベッドに横たわる、これまた全裸の友人は、
しかし全く友人の顔をしていなかった。
半分以上顔が吹っ飛んでいたから。
何かひどく、非現実的な世界を歩いている気がして、
自分を現実につないでおきたくて、こうしなきゃ、ああしなきゃ、と
俺は妙にテキパキと行動していた。
だから、警察を待つ間に帰ってきてしまった俺の彼女にも
「二階に来るな!」と怒鳴りつけた。
彼女は、火薬の混ざった、生臭い臭いから、何かを察したようで、
コートも脱がずに一階に留まっていた。
警察はその後数分もせずに来た。
玄関先で、「二階です。二階に行ってください。カーラも上にいます。」
と伝えたとたん、情けなくも足腰の力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。
たてつづいて大雪が降った年だったので、
出入りする警察のブーツについた雪と泥で
玄関先の床はぐしょ濡れだった。
へたりこんだ俺のジーンズも濡れたので
「俺、失禁したように見えるかな・・・?」
と、くだらないことを彼女に言った。
彼女は真っ青になって震えてたちすくんでいたが、それを聞いて抱きついてきた。
彼女のタイツもびしょ濡れになった。